1 概要
本件は,発明の名称を「ゲームプログラム,ゲーム処理方法および情報処理装置」とする発明(請求項1~8)について,平成29年5月9日に特許出願(特願2017-92933号。当初出願。分割の子出願です。)をした原告(グリー)に対し,平成30年3月23日付けで拒絶理由が通知され,これに対して,原告が対応したものの,平成31年3月29日付けで拒絶査定(本件拒絶査定)がされたことから, 原告は,令和元年6月24日付けで,拒絶査定不服審判(不服2019-8313号)を請求したものの,その後,令和2年2月17日付けで再度拒絶理由が通知され,原告がこれに対応したところ,同年6月29日付けでさらに,拒絶理由が通知され,原告が,同年8月28日付けで意見書及び手続補正書(本件補正)を行ったのですが, 特許庁が拒絶審決(補正の新規事項追加,進歩性なし)を下したことから,これに不服の原告が審決取消訴訟を提起したものです。
これに対して,知財高裁2部の森さんの合議体(もう森さんは居ませんが。)は,原告の請求を棄却しました。
つまりは,補正の新規事項追加ですよ~ってことですね。
さて,進歩性も論点ですが,裁判所が新規事項追加の所しか判断してませんので,ここだけです。
ですが,ま,こういうゲームというかソフトウエアというか,そういうものでの新規事項の話ですので,取り上げた次第です。
まずはクレームからです。
「【請求項1】 コンピュータに,
アイテムのアイテム情報に関するフィルタリング条件を設定する条件設定機能と,
前記アイテムをユーザに対応付けて記憶装置に記憶させるアイテム付与機能と,
前記アイテム付与機能によって対応付けられたアイテムのアイテム情報,および,前記条件設定機能によって設定されたフィルタリング条件を比較する比較機能と,
前記比較機能によって比較された結果,前記アイテム情報が前記フィルタリング条件を満たしている場合,前記アイテムを,当該アイテムの価値情報毎に異なる設定情報に対応付けて数値化する変換機能と,
前記変換機能によって数値化された前記アイテムの数値に基づいて,前記アイテムを,前記アイテムを強化するための特定のアイテムに変換するアイテム変換機能 と,
を実現させ,
前記特定のアイテムの個数を減じることに応じて,前記アイテムの強化が行われるゲームプログラム。」
これを,本件補正でこうしたらしいです。
「【請求項1】
コンピュータに,
アイテムのアイテム情報に関するフィルタリング条件を設定する条件設定機能と,
前記アイテムがユーザに付与された際に自動的に,
前記アイテムのアイテム情報,および,前記条件設定機能によって設定されたフィルタリング条件を比較する比較機能と, 前記比較機能によって比較された結果,前記アイテム情報が前記フィルタリング条件を満たしているアイテムを,当該アイテムのアイテム情報に含まれる価値情報毎に異なる設定情報に対応付けて数値化する変換機能と,
前記変換機能によって数値化された前記アイテムの数値に基づいて,前記アイテムを所定個数の価値の等しい一種類の特定のアイテムに変換するアイテム変換機能 と,
前記特定のアイテムを,前記ユーザに関連付けられたアイテムボックスに対応付けて記憶するアイテム記憶機能と
を実現させるゲームプログラム。」
下線以外のところも若干変わっているのですが,大きな変更点であり,論点でもありますので,下線の所中心で。
さて,これ,どういう発明かというと,スマホでやるカードゲームの発明なのですね。
で,そのカードゲームの何に関する発明かというと,雑魚アイテムの整理~♫ってわけです。
ま,カードゲームに限らず,スマホのゲームって,アイテムボックスの容量も限られてますし,その容量を増やすのは面倒くさい(金がかかる)ので,ゲームが進んで雑魚のアイテムが貯まると結構困ります(ポケモンGOでもそういう悩みはあります。ラッタだとかコイキングだとかどうでもいいポケモンが増えてくるのですね。)。
そういうときにどうしようか,ってのが本件発明です。
で,補正前のクレームによると,複数の雑魚アイテムを一つの「特定のアイテム」という一段上のレベルに変換して所持できるようになる,と。そうすると,アイテムボックスが雑魚アイテムで一杯になるのを防ぐことができる~ってわけですね。
ふむふむです。
で,まあこれはこれでいいのですが,なんか似た発明があったのでしょうね(だからこその進歩性なしなのですが。)。なので,上のように補正してしまったわけです。
この補正の趣旨は,「特定のアイテム」の方もアイテムボックスに収納する~ってことです。
うん?そうすると,アイテムボックスがそのうちまた一杯にならない?本件発明のそもそもの課題と目的を損ねるような気がしますが・・・ってことなわけです。
つーことで新規事項追加が問題になったわけですね。
2 問題点
ですので,問題点は,補正の新規事項追加です。
まずは条文からです。
「(拒絶の査定)
第四十九条 審査官は、特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。
一 その特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面についてした補正が第十七条の二第三項又は第四項に規定する要件を満たしていないとき。
・・・・」
で,次は,17条の2第3項です。
「3 第一項の規定により明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、誤訳訂正書を提出してする場合を除き、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(第三十六条の二第二項の外国語書面出願にあつては、同条第八項の規定により明細書、特許請求の範囲及び図面とみなされた同条第二項に規定する外国語書面の翻訳文(誤訳訂正書を提出して明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあつては、翻訳文又は当該補正後の明細書、特許請求の範囲若しくは図面)。第三十四条の二第一項及び第三十四条の三第一項において同じ。)に記載した事項の範囲内においてしなければならない。」
特許法でいくつか重要な条文があります。この17条の2第3項は,ベストワンとまでは言いませんが,ベスト5を選ぶなら絶対入っている,超重要条文の一つではないかと私は思います。
で,とは言え,じゃあこの「願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面・・・に記載した事項の範囲内」って具体的にはどういうこと?ってのが残ります。
これについては,これまた有名なソルダーレジスト事件(知財高裁平成18年(行ケ)第10563号)の判決ですね。
「「明細書又は図面に記載した事項」とは、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、「明細書又は図面に記載し た事項の範囲内において」するものということができる。」
しかしながら,ここでいう「新たな技術的事項を導入しないもの」ってえのはそのまますぐにわかるもんじゃありません。
ま,須らく言葉というのはそんなものです。「犬」と聞いて,あああのいぬね!と分かるのはいぬのことを知っているからです。日本語がさっぱり分からない人に実物の犬(画像でもいいのですが。)を見せること以外で分からせる,なんて不可能でしょう。
ですので,今は,判決の蓄積や審査基準で大体のことが分かるという状態にある,ってことでしょうかね。
例えば,明細書に記載されているものならOK!(とは言えこういう併せ技はダメ),それ以外なら言わずもがなのものならOK!,とコンセンサスのあるのは,こんなところでしょうか。
で,本件だとどうなったか?ってわけです。
3 判旨
「 (1) 証拠(甲7,10)によると,当初出願については,令和2年4月1日付け補正によって,「前記特定のアイテムを,前記ユーザに関連付けられたアイテムボックスに対応付けて記憶するアイテム記憶機能」との新たな発明特定事項が追加され,それが本件補正でも維持されていたことが認められる。
「前記特定のアイテムを,前記ユーザに関連付けられたアイテムボックスに対応付けて記憶するアイテム記憶機能」との記載からすると,新たな発明特定事項は,「特定のアイテム」を「アイテムボックス」という名前のついたものに記憶させる,すなわち,「特定のアイテム」を「ユーザに関連付けられたアイテムボックス」に収納することをいうと解することができる。
したがって,新たな発明特定事項は,「『特定のアイテム』を『ユーザに関連付けられたアイテムボックス』に収納する」ことを特定していると認められる。
(2) 当初明細書には,「アイテムボックス」について,段落【0051】にのみ記載がある。
そして,「不要なアイテムによりユーザのアイテムボックスが満杯になるのを防」ぐことができる」との記載から,当初明細書に記載された「アイテムボックス」は,アイテムを収納するための構成であって,かつ,アイテムの収納上限が設けられているものと認められる。このことは,「ユーザが保有することができるカードの数には上限がある」(段落【0005】)との記載とも整合すると認められる。
一方,当初明細書には「特定のアイテム」について,アイテム付与部によって付与されるアイテムとは異なる種類のアイテム(段落【0049】)であり,アイテム付与部により実行されるアイテム付与ステップによってユーザに付与された「アイテム」が,アイテム変換ステップにより変換され(段落【0026】,【0035】,【0039】,【0048】),特定アイテム付与ステップによりユーザに付与される(段落【0040】,【0050】)ものであって,上限なくユーザが所持可能とすることができるものである(段落【0031】,【0040】,【0050】,【0052】)と記載されている。
そして,収納上限が設けられているアイテムボックスに「特定のアイテム」を収納すると,「特定のアイテム」を上限なくユーザが所持することは不可能であるから,当初明細書に接した当業者は,「特定のアイテム」は,「アイテムボックスに収納して保持する」ものではないと理解すると解される。
そうすると,「『特定のアイテム』を『アイテムボックス』に収納して保持すること」を意味する「前記特定のアイテムを,前記ユーザに関連付けられたアイテムボックスに対応付けて記憶するアイテム記憶機能」との新たな発明特定事項は,当業者によって当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項の範囲内のものであるとはいえない。 」
「前記特定のアイテムを,前記ユーザに関連付けられたアイテムボックスに対応付けて記憶するアイテム記憶機能」との記載からすると,新たな発明特定事項は,「特定のアイテム」を「アイテムボックス」という名前のついたものに記憶させる,すなわち,「特定のアイテム」を「ユーザに関連付けられたアイテムボックス」に収納することをいうと解することができる。
したがって,新たな発明特定事項は,「『特定のアイテム』を『ユーザに関連付けられたアイテムボックス』に収納する」ことを特定していると認められる。
(2) 当初明細書には,「アイテムボックス」について,段落【0051】にのみ記載がある。
そして,「不要なアイテムによりユーザのアイテムボックスが満杯になるのを防」ぐことができる」との記載から,当初明細書に記載された「アイテムボックス」は,アイテムを収納するための構成であって,かつ,アイテムの収納上限が設けられているものと認められる。このことは,「ユーザが保有することができるカードの数には上限がある」(段落【0005】)との記載とも整合すると認められる。
一方,当初明細書には「特定のアイテム」について,アイテム付与部によって付与されるアイテムとは異なる種類のアイテム(段落【0049】)であり,アイテム付与部により実行されるアイテム付与ステップによってユーザに付与された「アイテム」が,アイテム変換ステップにより変換され(段落【0026】,【0035】,【0039】,【0048】),特定アイテム付与ステップによりユーザに付与される(段落【0040】,【0050】)ものであって,上限なくユーザが所持可能とすることができるものである(段落【0031】,【0040】,【0050】,【0052】)と記載されている。
そして,収納上限が設けられているアイテムボックスに「特定のアイテム」を収納すると,「特定のアイテム」を上限なくユーザが所持することは不可能であるから,当初明細書に接した当業者は,「特定のアイテム」は,「アイテムボックスに収納して保持する」ものではないと理解すると解される。
そうすると,「『特定のアイテム』を『アイテムボックス』に収納して保持すること」を意味する「前記特定のアイテムを,前記ユーザに関連付けられたアイテムボックスに対応付けて記憶するアイテム記憶機能」との新たな発明特定事項は,当業者によって当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項の範囲内のものであるとはいえない。 」
4 検討
アイテム整理してアイテムボックスを空けるために「特定のアイテム」化したのに,それをまたアイテムボックスに入れるっていうのでは,本末転倒~♫つまりはそんなことは当初明細書に書いてないぜ~♫旦那~♡ってわけです。
まあこれはこのとおりかなあと思います。
しかし,こういうことは結構あります。
私も今は当事者の立場でなくなりましたが,ソニーの知財部時代,29条2項を回避するために,ダメ元でこういう補正してくれない~♫って,よく特許事務所に頼みました。
どうせこのままだと29条2項で拒絶なのですし,お金を払ってるのはこっちなんだから,チャレンジしてもいいようなものなのに,結構やってくれない特許事務所があって,ときどき電話口で口論になったりしました。
ま,特許事務所には特許事務所なりの立場とかそういうのがあるのかもしれませんけど,客あってものだと思いましたねえ,そのときは。今でもその件に関してはそのとおりだと思いますけどね。
つーことで,実務家の皆さん,特に現役知財部の皆さんには参考になるのではないかと思います。
今回グリーの企みは失敗しましたが,失敗上等ですよ。所詮人の判断することですので,上手く行く場合もあると思います。
5 追伸
毎度おなじみ不要不急の弁護士,散歩のコーナーでございます。
本日はここ目黒新橋に来ております。
勿論,セミを探して・・・わけです。
だけどここまでなかなか捕まえられる位置に居ませんでした。
で,目黒清掃工場の対面辺りに来た所で,漸くです。
裏はこんな感じ。
で,清掃工場の緩衝緑地からセミの鳴き声が結構響いていたので,そっちです。
で,更に,茶屋坂を登り,その頂上付近にある児童遊園です。
裏はこんな感じ。
昨日に比べれば実に落ち着いてる天気です。
さて,昨日,ソフトボールで日本が金メダルを取りました。良かったですねえ。
だけど,6チームしか参加していません。サッカー女子もバスケット女子も,その倍の12チームです。
そりゃ,やっぱりオリンピックでやったりやんなかったりするよねえ~こんなもん(野球も似たようなものですが。)。
なので,ソフトボールは日本での強化も重要ですが,世界にもっと広げないと・・・。面白いスポーツではあるのですから,伝道師を世界に放つ,それこそ上野選手が普及の魁を・・・みたいなものが一番良いような気がします。
で,もう1つようわからんもの。それは女子のスケートボード,ストリート。
こちらも西矢選手が金メダル,中山選手が銅メダルで良かったのですが,このレベルでこんなにコケるのかってくらいよくこけます。
ま,男子の方もこけてはいましたが,女子の方は怪我して血が出て・・・,この一発度胸試しみたいな感じ~♫何とかならないものかって思います。
芸の難易度・完成度で競う競技は,ほかにも体操がありますけど,体操は各種目ほぼ一回試技の筈です。内村選手のように,その一発勝負で失敗したら決勝にすら行けません。
にもかかわらず,スケートボードのストリート,怪我するくらいの失敗して,まだやってもいい~失敗上等は私も好きですけど,失敗上等過ぎる~って感じがします。
しかも上位は子供ばかり・・・,一人だけアメリカの女子選手で34歳の人が決勝に残ってましたが,何かPTAか先生かって所で,本人もキツいよなあ~と要らぬ心配をしてしまいましたわ。
男子以上にルール改正した方がいいと思います。
あ,あと優勝者のインタビューで,銅メダルの子とラスカルの歌の話をしてたというのがありました。本当にあらいぐまラスカルの歌だと笑えるけど,最近そういう名前の歌手が流行ってんだ~ようわからんなあ~若い人の話題は・・・と思ってたら,本当にあらいぐまラスカルのことだったようです。
あらいぐまラスカル・・・私が小学生だったころの話ですわ。ミーミー言うラスカル,最後は森に返すのでしたねえ。結構見てましたわ~♫
おかげで大して人に馴れないのに,輸入が急増~放棄も急増~今じゃ特定外来生物ってことで,あらいぐまmust dieになっておりますニャー。ガハハハ。
あと,今日の午前中は,大橋選手(競泳)の個人メドレーの2冠がありました。彼女は美人だし,スポーツ選手には珍しい内気な感じだし,実に良いですねえ。瀬戸大也は彼女の爪の垢でも煎じて飲むといいと思いますよ。
ま,競泳は今日はじめて男子にメダルが出ましたけど,全体的に期待外れ~♫ですね。
あ,決勝の時間は良い訳にならないっすよ。13年前の北京オリンピック,このときもアメリカとの時差で,競泳は午前決勝にした筈です。で,そのときは北島選手の平泳ぎの2冠があったわけです。
ま,冴えている人はどんな場合でも冴えているってことですし,アホはどこで何してもアホだってことでしょうね。オホホホ。
で,競技開始から今日で1週間。何かあっという間ですね。毎日夕方から夜にかけて楽しみにしている柔道~♫今日はさすがに男子の金メダルは途絶えたようです。
昨日まで4日連続でしたもんね。
女子の方の新井さんが残っておりますので,そちらに期待しておきましょう。
ところで,珍型コロナ,何かPCRの陽性者が多くなったって,多少の騒ぎになっていますね。しかし,ここでも書きましたが,陽性者って言っても本当は感染していない(軽症や無症状のことじゃなく)人が結構居るのです。
しかも,今や30代以下が全体の7割です。なので,重症者は全国でたった514人,死亡者は8人増えただけ・・・(勿論,全国で)。
もう本当に大騒ぎするのはやめた方いいんじゃないかなあと思いますよ。
ただの風邪なんだから,そのくらい感染するときもありますよ。生きてりゃ必ずなんかの病気になるし,そのうちみんな死ぬのです。
なので,菅総理がオリンピックはやめません!て答えたのは実に当たり前(当たり前のことでも天晴!ですね。),こんなんでやめるってどんな発想?そんなに珍型コロナが怖けりゃ,てめえが3年くらい家から出ずにじーっとしてりゃあいいんだよー。私はそんなのは嫌ですけどね。